はじめに
会社と労働者の個別労働紛争が発生した場合、訴訟や労働審判のほかにも様々な解決方法があります。以下ではADR(裁判外紛争解決手続)について概要を説明します。
ADRとは
ADRとは、裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution)のこといい、訴訟によらない紛争解決方法をいいます。労働問題に関するADRは大きく分けて行政型ADR(都道府県労働局の紛争調整委員会等が実施する手続き)と、民間型ADR(法務大臣の認証を得た団体や厚生労働大臣が指定する団体が実施する手続き)に分けることができます。
トラブルの当事者の会社と労働者の間に、弁護士や社会保険労務士といった専門的な知識を持った者を含めた学識経験者である第三者が入り、双方の主張の要点を確かめ、場合によっては、両者が採るべき具体的なあっせん案を提示するなど、紛争当事者間の調整を行い、話合いを促進することにより、紛争の円満な解決を図ります。
行政型ADRについて
行政型ADRの例としては、労働局のあっせん手続を上げることができます。
あっせん手続きは、都道府県の総合労働相談センターへの相談を経由して申し立てられる場合がほとんどです。申立てがなされると、あっせん開始通知書が相手方(多くの場合は使用者)に送付され、あっせんに出席する意向の有無が照会されます。出席するか否かは相手方の判断に委ねられます。
相手方が出席する意向を示した場合には、双方の都合をすり合わせたうえで期日が指定されます。
期日には、弁護士等から選任されたあっせん委員が立会い、労使双方の意見を聴取したうえで、和解を試みることとなります。
労働審判とは異なり、労働局のあっせんは原則として1回2時間限りの手続であり、また、和解がまとまらない場合に審判が下されることもありません。期日に和解がまとまらない場合には、あっせんは不調終了となります。不調終了となった場合の異議申立て等の制度は存在せず、他の手続を改めて利用するか否かは申立人の判断に委ねられます。
1回2時間限りと簡易ではありますが、申立人側の負担が少ないため、利用件数が多い手続です。使用者側から見ても、わずかな時間と労力で妥当な和解が成立する可能性があるという利点があります。実際、和解成立のパーセンテージはある程度高いようです。
他方で、事案が複雑であったり、当事者が感情的になっていて譲歩が難しかったりするような和解の成立する可能性が低い場合、結局労働審判や訴訟などの手続きにより解決することになり、あっせん手続きが無駄になる可能性があります。
民間型ADRについて
大阪における民間型ADRの例としては、公益社団法人民間総合調停センター(以下「民間総合調停センター」といいます。)の実施する和解あっせん手続きが挙げられます。
和解あっせん手続きは、大阪弁護士会館1階の民間総合調停センター事務局に申し立てを行います。和解あっせん手続きが開始されると、弁護士などの和解あっせん人が選任され、民間総合調停センターから相手方に対して手続きに応じるかの意向確認がなされます。
手続き応じる場合は期日を設定し、期日において使用者側と被用者側に、それぞれの意見を別々に聞き取り、適切な和解案をご提案し、話し合いをもって和解を目指すものです。
民間総合調停センターの和解あっせんを利用するメリットとしては次のような点が挙げられます。
①手続的に簡便である
・・・厳格な手続法はなく,臨機応変の処理を行うことができる。
②解決までの時間が短い
・・・訴訟手続では第一審で半年~2年程度の時間を要することも少なくなく、控訴審・上告審へと進んだ場合には、さらに時間を要します。他方、ADRでは早期解決が期待できます(目安は3回3ヶ月程度)。
③当事者による自律的解決
・・・話し合いを旨とする手続であるため、当事者の意向を尊重した手続・解決を目指すことが可能です。他方、中立な立場の専門家が仲介するため、法的妥当性も確保されます。
④経済的である
・・・訴訟手続ではコスト面で当事者に大きな負担がかかることが多いですが、ADRではそのような負担(例えば弁護士費用、鑑定費用など)を要することなく解決に至るケースも少なくありません。このため、少額事件や簡易な事件に限らず、紛争一般について経済的であるといえます。
⑤非公開
・・・ADRでは手続が非公開であるため、争いの内容や存在自体を知られたくない場合には適しています(プライバシーについて配慮する必要のある紛争、企業秘密にかかわる紛争など)。
他方で、民間型ADRでも、行政型ADRと同様に、和解の成立する可能性が低い場合には、結局労働審判や訴訟などの手続きにより解決することになり、あっせん手続きが無駄になる可能性があるというデメリットがあります。
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