著作権法は、平成30年に2つの改正法が成立しました。ひとつは、「著作権法の一部を改正する法律」(平成30年法律第30号;以下、適宜改正30号と称す。)、もうひとつは、「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律」(平成30年法律第70号;同様、改正70号と称す。)です。
改正30号は、柔軟性を持たせた権利制限規定が追加された改正法であり、改正70号は、「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の発効に伴い、保護期間が延長されるなどの改正法です。
改正30号は、デジタル化・ネットワーク化の進歩等に対応させた、柔軟な権利制限規定が整備されました。改正70号は、TPP締結に伴う法律整備の下、著作物の保護期間の延長や侵害罪の一部非親告罪化といった規定が整備されています。以下、具体的に見てゆきましょう。
【著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)】
[デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備]
・著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用、例えば、“AI学習のためにデータベース化する”、“情報を解析し、2つの文書の類似点だけを抽出して表示させる”といったことが、目的や方法の限定なく利用可能になりました。
・電子計算機における著作物の利用に付随する利用、例えば、電子計算機での利用を円滑に行うための利用に付随する目的の場合は、”サーバにおけるキャッシュのための複製”、“バックアップとしての複製が、目的や利用方法を限定せずにできるようになりました。
・電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用、例えば、蔵書の中から検索されたキーワードを含む書籍タイトルや所蔵場所とともに、検索により一致した文章の一部を表示するといった利用は、アナログ情報も含めて(改正前は、インターネット情報に限定)利用できるようになりました。
[教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備]
・遠隔合同授業以外の目的での公衆送信でも無許諾で利用できるようになります。即ち、改正前は、授業の予習・復習のために著作物の一部をメールで送信する、といった利用は権利者からの許諾が必要でしたが、改正により、利用許諾が不要となりました(一定の補償金が必要)。
[障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備]
・現行法では視覚障害者の利用に限って書籍の音訳などができますが、「マラケシュ条約(盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約)」締結により、肢体不自由者にもその対象が広がりました。
[アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等]
・国立国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送信
一定の条件下で認められて行った書籍のデータ化資料を、改正前は日本国内の公共図書館などに限られていたのですが、今回の改正により外国の図書館にも送信することができるようになりました。
・作品の展示に伴う美術・写真の著作物の利用
美術館の展示の際、作品を紹介するために、小冊子にその作品を掲載することができますが、今回の改正により、タブレット端末のような電子機器にも作品を掲載することができるようになりました。また、ウェブサイトなどにおいて、作品を紹介するサムネイル画像も掲載可能です。ただし、いずれも著作権者の権利を不当に害する場合を除きます。
・著作権者不明等著作物の裁定制度の見直し
権利者不明の場合に、使用料相当額を供託することでその利用を可能とする「裁定制度」ですが、今回の改正により、権利者が見つかった場合に確実に補償金を支払うことができると考えられる国や地方公共団体などについては、事前の供託を求めないものとされました。
【「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律」(平成30年法律第70号)】
[著作物等の保護期間の延長]
・著作者の死後などから50年であった保護期間が70年になりました。
[著作権等侵害罪の一部非親告罪化]
・一定の要件を満たす場合に限り、著作権侵害が非親告罪となりました。「海賊版」の販売行為が権利者の告訴がなくても公訴を提起できるようになりました。なお、「同人誌」は一部の要件(原作のまま譲渡等を行うものであること)を満たさないため、従来通り親告罪のままです。
[著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段に関する制度整備(アクセスコントロールの回避等に関する措置)]
・コピープロテクトなどの技術的保護手段の不正解除のみならず、著作物の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール)を不正に回避する行為も緒サック兼侵害行為とみなされます。
[配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与]
・改正前は、CDなどを用いて放送等が行われた場合が使用料請求の対象でしたが、インターネット配信もその対象となりました。
[損害賠償に関する規定の見直し]
改正前の算出方法に加えて、著作物が、著作権管理事業者によって管理されている場合は、その管理事業者が定めている使用料規定によって算出した額を損害額として賠償請求できるようになります。
【まとめ】
今回の2つの改正により、権利を制限する規定と、権利の利活用を促す規定とがさだめられました。複雑な改定内容であることから、今後、著作物の利用については、十分な注意が必要です。ご不明な点は、専門家へご相談下さい。
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