商標不使用取消審判とは、一定期間使用していない他人の商標登録の取消を請求する手続のことをいいます。使用したい商標が他人の登録商標である場合であって、その登録商標が使用されていないと思われるときに、その商標を使用できるようになる方策がある場合があります。その一つが不使用取消審判です。
具体的には、不使用取消審判請求の日から過去3年間、日本国内で当該商標が、指定商品又は指定役務について使用されていない場合に、当該商標の登録が取り消されるというものです。ここでいう「使用」には、商標権者自身による使用に限らず、専用使用権者や通常使用権者といったライセンシーの「使用」も含まれます。
なお、登録から3年経過していない場合は、不使用には該当しません。
【留意点】
・請求人適格
誰でも不使用取消審判を請求することができます。
一方で、権利者を害することのみを目的とした嫌がらせのような審判請求は権利の濫用として認められないと解されています。
・立証の要否
使用していることの立証は、商標権者側にあります。審判請求人側が審判を請求するにあたり何某かの立証を求められることはありませんが、不使用については事前に調査しておくべきでしょう。
・不使用を請求する範囲
登録に係る指定商品や指定役務の全部又は一部について請求が可能です。一般には、請求人側との競合が生ずる範囲に限定すれば足りるでしょう。但し、関連する商品や役務も含めて漏れがないように注意します。
・使用の立証
上述のとおり、登録商標を使用しているという事実の立証責任は商標権者側にあるので、権利者は、審判請求の登録の前3年以内に、当該登録商標を日本国内で使用していた事実を証明しなければなりません。或いは、使用しなかったことについて正当な理由があることを明らかにしなければなりません。これらの立証等ができなければ、当該商標登録は取り消されることになります。
・駆け込み使用
権利者側で証明するのは、「審判の請求の登録前3年以内」の使用についてですが、その使用が「駆け込み使用」であった場合には、登録商標の使用とは認められません。権利者が、譲渡交渉やライセンス交渉の申し入れを受けたときに、不使用取消審判が請求されうることを察知し、急に当該商標を使用し始めて取消しを免れるといったケースを排除する必要があるからです。
したがって、審判の請求前3月から請求の登録日までの間の当該商標の使用であって、「その使用が審判の請求がされることを知った後である」ことを審判請求人が証明した場合には、その使用について正当な理由がない限り、取消は免れません。譲渡交渉の際には、後の取消し審判の審理において、審判の請求をされることを「知った後の使用」と認められるように、「譲渡を受けない場合は不使用取消審判を請求する旨を、譲渡申し入れの際の書面に含めておくことが重要です。
・登録商標と使用商標の同一性/社会通念上同一の商標
審判において、使用事実の立証で問題となるのは、登録商標と、実際に使用した商標が同一でないケースです。この点、法は、「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」を含むと規定します。つまり「社会通念上同一」であるか否かが問題となります。
<社会通念上同一が否定されるケース>
・登録商標「Light」 使用商標「ライト」
∵ライトには、「Light」の他にも「Write」が考えられます。
・登録商標「猪口」 使用商標「チョコ」
∵「チョコ」は、「チョコレート」の略と考えられます。
・登録商標「桔梗」 使用商標「ききょう」
∵「ききょう」は、「桔梗」以外に「帰郷」も考えられます。
・登録商標「Rainbow」 使用商標「虹」
∵観念は同一ですが、称呼が異なります。
【まとめ】
不使用取消審判を請求する場合も、請求された場合にも、留意すべき点が多々ありますので、どちらの立場の場合であっても、専門家へのご相談をお勧めします。
弁護士法人英明法律事務所(大阪市(天王寺・あべのハルカス)・岸和田市)では、
法律相談を受け付けています。
弁護士法人英明法律事務所・知財担当
〒545-6032
大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43
あべのハルカス32階
☎ 06-6625-6033
まで、お気軽にお問合せください。